退職給付債務計算【DBO計算(旧PBO計算)】、退職金・年金制度設計、企業年金資産運用など

企業年金・退職金に関する経営課題を解決するコンサルティング【IICパートナーズ】

代表コラム

07 27

投稿者: nakamura
2018/07/27 10:00

2018年6月に、東京証券取引所から「コーポレートガバナンス・コード(改訂版) 」が公表されました。

今回の改正では、従業員(注1)と企業の間の利益相反関係を含めた企業年金に関する以下の記述「原則2-6」が追加されており、上場企業の経営層のほか、これまで企業年金への関心が高くなかった方々が企業年金へ注目するきっかけになっているようです。

(注1)コード本文中においては「受益者」(加入者及び受給権者)と記述しているが、本コラムでは分かりやすさを優先し便宜的に「従業員」として記載する。以下同様。

 

≪2018年6月公表の「コーポレートガバナンス・コード(改訂版)」より抜粋≫

<原則2-6:企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮>

『上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。

その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである。』

(出所:「コーポレートガバナンス・コード (東京証券取引所)」P10 、下線及び青字化は筆者追加)

 

上記の「コーポレートガバナンス・コード(改訂版)」の他にも、様々な通達や指針に、「従業員・企業・基金・理事・運用機関・運用コンサルタントにおける利益相反関係について、より厳格な利益相反管理を求める規定」が盛り込まれており、金融庁が強く推し進めている「顧客本位の業務運営」(注2)の意図が浸透しているように思います。

「顧客本位の業務運営」を企業年金に当てはめ、さしずめ「受益者(従業員等)本位の業務運営」が進んでいる、と言い換えることができるでしょう。

(注2):「顧客本位の業務運営に関する原則 (2017年3月、金融庁 )」における原則1~3及び7参照

 

例えば、2017年5月公表の「日本版スチュワードシップ・コード改訂版(スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会)」や2017年11月公表の「DBガイドライン改正版(厚労省)」に以下のような規定が定められています。

 

 

【「日本版スチュワードシップ・コード」及び「DBガイドライン」における利益相反に関する規定】

 

≪2017年5月公表の「日本版スチュワードシップ・コード(改訂版) 」より抜粋≫

原則2 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

指針

2-1. 機関投資家は顧客・受益者の利益を第一として行動すべきである。一方で、スチュワードシップ活動を行うに当たっては、自らが所属する企業グループと顧客・受益者の双方に影響を及ぼす事項について議決権を行使する場合など、利益相反の発生が避けられない場合がある。機関投資家は、こうした利益相反を適切に管理することが重要である。

2-2. 機関投資家は、こうした認識の下、あらかじめ想定し得る利益相反の主な類型について、これをどのように実効的に管理するのかについての明確な方針を策定し、これを公表すべきである。 特に、運用機関は、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避し、その影響を実効的に排除するなど、顧客・受益者の利益を確保するための措置について具体的な方針を策定し、これを公表すべきである。

 

2-3. 運用機関は、顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止のため、例えば、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備すべきである。

 

2-4. 運用機関の経営陣は、自らが運用機関のガバナンス強化・利益相反管理に関して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきである。

(出所:「日本版スチュワードシップ・コード(改訂版)」、下線及び青字化は筆者追加)

 

≪2017年11月公表の「DBガイドライン改正版(厚労省)」より抜粋≫

3(5) 運用の委託

① 運用受託機関の選任・契約締結

○ 運用受託機関の選任の際に理事等が行う運用受託機関に対するヒアリングは、定性評価の基準の例に掲げる事項について行うものとする。

また、その場合にあっては、投資判断を行うファンド・マネジャー等に対するヒアリング及び運用コンサルタントや資産運用委員会等に対するヒアリングを含めることが望ましい。

 

② 運用受託機関の管理

(運用ガイドラインの提示)

○ 日本版スチュワードシップ・コードを受け入れている運用受託機関に次の取組みを求めることが望ましい。

・ 利益相反についての明確な方針の策定と公表投資先企業の状況の的確な把握と、その状況の公表

・ 投資先企業との間で、建設的な対話を通じ事業環境についての認識を共有するとともに、認識した課題について改善に向けた取り組みを促すこと

・ 議決権の行使の方針の提示と行使結果の公表

・ 目的を持った対話の状況や議決権行使状況についての報告

 

3(8) 運用コンサルタント等の利用

(運用コンサルタント等の利用)

○ 運用の基本方針、運用ガイドラインや政策的資産構成割合の策定、運用受託機関の選任、運用評価等に関し、必要な場合には、運用コンサルタント等外部の機関に分析・助言を求めることが考えられる。

 

○ なお、運用受託機関の選任又は運用評価に関する助言の契約を運用受託機関又は運用受託機関と緊密な資本若しくは人的関係にある機関と締結する場合、助言の中立性・公正性の確保に十分留意する必要がある

 

(運用コンサルタント等の要件)

○ 事業主等が契約を締結する運用コンサルタント等は、金融商品取引法(昭和 23 年法律第 25 号)第 29 条の規定による投資助言・代理業を行う者としての登録を受けている者でなければならない。

○ 事業主等は、運用コンサルタント等と契約を締結する際には、当該運用コンサルタント等の運用機関との契約関係の有無を確認しなければならない

(出所:「DBガイドライン改正版(厚労省)」、下線及び青字化は筆者追加)

 

ではこの利益相反の管理について、実務上どのように判断し、運営していくべきなのか・・・悩ましいところですが、非常に良い文献があります。

 

企業年金 受託者責任ハンドブック(改訂版)(2018年5月、企業年金連合会)

 

この受託者責任ハンドブックは、企業年金連合会が、上記のDBガイドライン改正版を、趣旨を含めてわかりやすく、かつ、事例を交えて具体的に解説しており、お勧めです。

 

なお、この利益相反について語るなら、基本的には運用面だけでなく、制度設計面などでも同様の理屈が成り立ちます。お客様にとって最適な制度設計の提案をするためには、専門性はもちろん、利益相反関係の排除が重要という話です。

 

弊社としても、運用を含めた退職給付全般のコンサルタントとして中立・公正な立場を堅持し、この利益相反という課題について、丁寧にお客様をサポートし続けたいと思います。

 

 

さて実は、私が今回本当にお伝えしたかったのは、ここからなのです。

この利益相反、本当はもっと重要なテーマが裏に隠れているのです。

 

 

 

【利益相反問題の裏に隠れている、さらに重要なテーマ(従業員と企業のWin-Win関係の構築)】

 

従業員と企業の間での利益相反について単純に考えると、企業年金の運営をする上で、企業が結果的に何らかの利益を得ることは全てNGなのではないか、と考えてしまう方もいるかもしれません。それは誤解です。

 

企業又は基金の理事に課せられる「受託者責任」とは一般的に善管注意義務と忠実義務という2つの義務によって構成されています。

そして、忠実義務の定義については、先ほどご紹介した「企業年金 受託者責任ハンドブック(改訂版)」に以下のように記述されています。

 

『忠実義務とは、「もっぱら加入者等の利益を考慮すべきであり、これを犠牲にして加入者等以外の者の利益を図ってはならない」義務である。

これは、「他人のために財産管理を任された者は、もっぱらその他人の利益のために行動 しなければならず、当該他人と自己の利益が対立する場合(いわゆる利益相反、conflict of interests)には、自己の利益のために他人の利益を犠牲にしてはならない」という、 信託法に起源を有する忠実義務(duty of loyalty)を、現行法の枠組みを前提として事業主及び理事に当てはめたものである。 』(出所:「企業年金 受託者責任ハンドブック(改訂版)(企業年金連合会)」P14 、下線及び青字化・赤字化は筆者追加)

 

要は、他人(ここでは従業員)と自己(ここでは企業)の利益が対立する場合、つまり利益相反関係が生じている場合に限り、自己の利益のために他人の利益を犠牲にしてはならない、ということなのです。

 

よって、他人(ここでは従業員)の利益を最大化するための努力により、自己(ここでは企業)の利益が大きくなることは否定されるべきではなく、むしろ、その方が企業として、企業年金の維持・充実への貢献意欲が沸き、企業年金の持続可能性を高め、さらに従業員の利益を高めることになるのです。

 

ざっくり表現するなら、従業員と企業がLose-Winになるような行動は許されず、Win-WinはOKということです。

 

では、どのような活動がWin-Winを実現するのでしょうか?

 

その答えは、従業員のWinを徹底的に深堀りしていけば見えてきます。

従業員のWin、将来のセカンドライフの充実、これを実現するためのセカンドキャリアの成功にどのようなことがプラスになるのか?

 

・・・・・・たとえば、企業年金・退職金の制度内容や金額、さらには制度に込めたメッセージを伝え、さらには、ライフプラン研修の提供、次の就業機会や必要となる能力開発研修の提供、健康寿命の増進に役立つ情報の提供など、幅広く考えていく必要があります。

先日もご紹介したWEBサイトジェニーhttps://jennie.biz は、そんな視点でセカンドライフの充実、セカンドキャリアの成功に役立つ情報を掲載していますので、ぜひご参照ください。

 

従業員のセカンドライフの充実、セカンドキャリアの成功を考え、情報提供、そして実行面での支援を行っていく。

 

それにより、企業年金・退職金の価値の大きさを理解してもらい、従業員が有難みを大きく感じるようになれば、そんな企業年金・退職金を大きなコストとリスクを負担し用意してくれている企業への感謝の念、ロイヤルティや貢献意欲の向上、ひいては人材確保につながる可能性があるはずです。

 

この結果、従業員のWinを通じて、企業のWinも実現するのです。

 

これは単なる理想論でしょうか? きれいごとでしょうか?

 

確かに、理想論であり、きれいごとかもしれません。

 

ですが、この理想論を実現できていなかったから、企業が、企業年金・退職金を、コスト・パフォーマンスの合わない人事制度の一つとして位置付けてしまい、縮小する方向に流されてしまっていたのではないでしょうか。

 

人材不足が深刻化している今、従業員のWinと企業のWinを同時達成する必要性と可能性が高まっています。

 

従業員と企業の相互理解に基づく「」あるいは「企業への愛着や仕事への情熱」の度合いを意味する「従業員エンゲージメント」を向上させ、人材確保につなげるため、退職給付を有効活用していきましょう。

 

「理想論」、「きれいごと」。ぜひ、一緒にやりましょう。

 

あなたができると思えばできる。できないと思えばできない。どちらにしてもあなたが思ったことは正しい。 』(ヘンリー・フォード)


中村 淳一郎

Tags: